止まない雨の降る夜は
止まない雨の降る夜は
「じゃあ先に上がる。あとは頼むな」

「あ、(すみ)さんお疲れっした」

ラストオーダーは二十二時半、二十三時半に閉店。飲食が固まったビルの三階に店をかまえるCLOAK(クローク)は、カタギ相手の健全なイタリアンダイニングバーだ。

オーナーの甲斐さんとオレが、その筋じゃ有名な櫻秀(おうしゅう)会傘下、一ツ橋組本家に属する木崎組を名乗ってるのを、スタッフ連中はなにも知らない。そんなもんだろ、世の中ってのは。

マネージャーとして留守を預かるのは表の顔、本業は組長代理の甲斐さんの手足。・・・そこいらのリーマンより働いてんじゃねーの?オレ。

ホールリーダーの金丸(かなまる)は学生バイトで雇い、そのまま正規採用したクチだ。言わないことはやらないが、言われたことはこなす。人当たりも悪くない。いずれオレの後釜に据えてもいい。

通用口から表に出てパーキングへと足を向けた。六月も半ばのわりに雨らしい雨も降らない。今夜は月もない涼しい夜だった。
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