止まない雨の降る夜は
「お先っす」
その晩は金丸も先に上がらせ、二重帳簿の処理だの裏仕事を一気に片付けた。木崎組は事務所をかまえてない。CLOAKが代わりみたいなもんで、ここがオレの居場所だった。
寝に帰るだけの部屋はただの箱だ。二時を回って店を出た。パーキングを出てしばらく、細かい雨粒がフロントガラスのコーティングに弾かれる。
閉店後の天気に興味はない。夜通し降ってようが嵐になろうが、知ったことじゃない。どっかの軒下にずぶ濡れでいようが知ったことじゃない。
・・・小夏なんて女は忘れた。
『もう来んな』
あの日。泣きそうにすがった女を払いのけて、ポケットにスマホだけ突っ込み部屋を出た。車で適当に流し時間を潰してから戻ると、オレのじゃなかった物が全部消えてた。
テーブルの上には渡しっぱなしだった部屋のスペアキー。洗濯物はソファに四角く畳んであった。なんでか自分が置いてかれた気になった。
冷蔵庫に残してったコンビニ飯は食べずに捨てた。ふにゃふにゃ笑った顔も全部、オレの中から捨てた。