私が蛙にされた悪役令嬢になるなんて、何かの冗談ですよね?

4-4 招かれる私

「クゥ〜ン……クゥ〜ン……」

 クロードの部屋の前で床に寝そべっている私。出す気もないのに情けない鳴き声をあげながら先生の診察が終わるのをじっと待っていた。

 そして部屋の前から一歩も動かない私を遠巻きに見つめるメイドさん達。皆、どこからともなく現れた巨大な犬の私を見て怯えているのは明らかだった。

 ああ……小さな子猫のミルクだったときは、あんなに皆のアイドルとして可愛がられていたのに。今では、あのメイドさんたちよりも大きな身体になった挙句に恐れられるとは……。

「せめてチワワ位の大きさだったら良かったのに。何故、今になってこんな巨大な犬になるのよ」

 そして改めてムクムクと魔法使いへの恨みが募ってくる私。
 
 おのれ、魔法使いめ。ろくにサファイアのことを調べもせずに、王子の話を真に受けてへんてこな呪いを掛けるとは許すまじ!

「今度私の前に現れたら絶対に噛み付いてやるんだから!」

 思わず無意識に私は低い唸り声を上げていたようだ。その証拠に益々メイドさんたちが怯えている。

「こ、怖いわ……あの犬、さっきから唸ってる」
「あんな大きな犬……追っ払え無いわ」
「どこから入ってきたのかしら……」

 ハッ! しまった!
 このままでは狂犬扱いされてこの城を追い出されてしまうかもしれない!
 ここは何としても役立つ犬でいなければならないのに……!
 
 私は苛立ちを抑えて深呼吸すると、扉が開かれるのをじっと待った。

 やがて扉が音を立ててゆっくり開かれ、白髪頭に白衣姿のおじいちゃん先生が部屋から出て来た。
 そしてその背後からはジャックの姿が。

 白衣の先生は一瞬巨大な犬の私を見て驚いた様にビクリとした。けれども私はじっとしていたので、先生は安心したのか目の前を素通りしていく。

 すると廊下で待機していたメイドさん達が駆け寄って来ると、次々に声を掛けて来た。

「先生、クロード様は?」
「大丈夫なのでしょうか?」
「お怪我は軽かったのですか?」

「ええ。クロード様なら大丈夫です。軽い打撲と擦り傷だけで済みましたから」

 先生の言葉に、途端に安堵するメイドさん達。勿論この私もだけどね。
 その時、ふと視線を感じて見上げると何故かジャックがじっと私を見おろしている。

「ワン?」
(何?)

 するとジャックはため息をつくと、私に声をかけてきた。

「来いよ。クロード様がお前に会いたがっているぞ?」

「ワオン?」
(何ですって?)

 思わず立ち上がった私に、数歩後退るジャック。恐らく私の大きさに驚いているのだろう。まぁ確かに今の私は……多分、後ろ足で立ち上がればジャックよりも大きいかもしれないものね。

「は、早く来いよ」

 ジャックは怯えながらも手招きして私を部屋へと招き入れた――







 
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