私が蛙にされた悪役令嬢になるなんて、何かの冗談ですよね?

4-7 叫ぶ女性

 バラの花がレリーフされた白い扉の前でジャックとクロードは足を止めた。成程、この部屋が応接間と言うわけね。ならここに『コーネリア』様がいるのか。

 けれど、『コーネリア』様……本当に何者なのだろう? この世界は私の知る小説の世界ではあるけれど、番外編のような世界。ひょっとして家族なのだろうか?

 それにしてはあんまり嬉しそうには見えないなぁ……。

 ジャックがノックすると、すぐに扉が開かれてメイドが……あ! アビーじゃないの!

 ジャックとアビーは一瞬視線を合わせると互いに笑みを浮かべる。
 うぬぬぬ……ジャックめ。まだアビーを諦めていなかったのね?

「クロード様、コーネリア様がお待ちになっております」

 アビーがクロードに声をかけた。

「うん、ありがとう。それでは2人は下がっていいよ」

 アビーとジャックは頭を下げ……何故か2人の視線は私に移動する。

「それじゃ、行くぞ。ホワイト」
 
 何ですって? 私は入っちゃいけないの? ジャックの言葉に衝撃を受けた私は助けを求めるべく、アビーをじっと見つめた。

「クロード様、いかが致しましょうか?」

 アビーは少し考えた様子を見せるとクロードに尋ねた。

「う~ん……ホワイトを連れて行ってくれないかな? 何なら散歩に連れ出してくれてもいいよ」

 それだけ言うとクロードは部屋の中に入ってしまった。

 ガーンッ!

 そんな! 確かに散歩には行きたいけれど……でもそれよりも、もっと気になることがあるのに! コーネリア様に会わせてくれないの!?

 いっそ、この場で吠えまくってやろうかと思ったけれど、私のアビーを困らせるわけにはいかない。

「キュウ~ン……」

 思わず尻尾を垂れて項垂れると、アビーが声をかけて来た。

「いらっしゃい。ホワイト。代わりにおやつをあげるから」

「ワン!」
(え? おやつ!?)

 おやつと言う言葉に、すぐに反応して無意識に尻尾を振ってしまう私。
 こうして私はアビーとジャックに連れられて、厨房へと向かった。勿論ジャックがアビーの手を繋げないように2人の間に割って入ったのは言うまでもない。


****

「ふ~……おやつ、美味しかった」

 厨房でアビーから、蒸したサツマイモを食べさせて貰った私はすっかり満足してお城の中庭で寝そべって日向ぼっこをしていた。

 目の前には私がかつて白蛙だったときに暮らしていた? 花壇が見える。

「懐かしい場所ね……蛙だった頃が夢みたいだわ……ん? あ、あれは……!」

 そのとき、私は花壇の先にあるガゼボに2人の人影を発見した。
恐らく一人はクロード、そしてもう一人は遠目からでは分からないけれども紫色のドレス姿の女性がいる。

 もしや……あの女性が『コーネリア』様!?
 これは絶対に様子を見に行かなければ!

 犬になったおかげで、すっかり好奇心旺盛になった私は急ぎ足でガゼボへ駆け寄った。

「ワンワンワン!」
(クロード!)

「え? ホワイト!?」

 クロードが目を見張る。
 一方、私の姿を目にした女性は瞬時に顔が青ざめる。
 
 あれ……? 随分若い女性だ。誰だろう?

 そう思った矢先――

「キャアアアア!! こ、怖い! クロード様! 助けて!」

 そして女性はクロードにしがみついて悲鳴を上げた――
 

 
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