私が蛙にされた悪役令嬢になるなんて、何かの冗談ですよね?

5-1 最終形態 人の姿に戻った私

  一体何が起こっているのだろう。

 地面に倒れこんだ私をボロボロ泣きながら覗き込んでいた人たちの顔に驚愕の色が浮かんでおり、何かを口にしている。
 けれどもう今の私には皆が何を話しているのか分からない。遠のく意識の中でふと目についたのは金色の長い髪の毛だった。

 そうか‥‥…私、最期に人間に戻れたんだ……。

「良かっ……た…‥‥」

 思わずポツリと呟いたその時。


「サファイアーッ!!」

 魔法使いの声が突然耳に飛び込み‥‥‥私の意識は完全に無くなった――
 


**

「サファイア……サファイア……お願いだ。目を開けてくれ……」

 悲し気な声が聞こえて来る。それは魔法使いの声だ。今までそんなに悲しげな声なんて聞いたことが無い。
 いつもヘラヘラ笑って何を考えているのか分からない、イカレた魔法使い。
 それなのに…‥‥今はまるで別人のように思える。

 だけど、その声を聞いていると、魔法使いの為にも目を開けなくてはという気持ちが込み上げてくる。

「う……」

 必死で重い瞼を開けてみた。するとそこには月明かりを背に、驚くほど至近距離で私を見つめている魔法使いの顔があった。
 しかも彼はいつもの瓶底眼鏡を掛けていない。あまりにも美しすぎる彼の顔は今にも泣きそうになっている。

「ま、魔法使い……?」

 言葉を口にした途端、突然強く抱き締められた。

「良かった…‥‥! サファイア……間に合ってくれて……!」

「え? え?」

 魔法使いに抱き締められながら、私はパニックを起こしかけていた。

 何? これはいったいどういうこと? 私はクロードを助ける為に狼たちと闘って……死にかけた……いや、死んだはず。
 それなのに何故魔法使いが私を抱きしめているのだろう? いや、それ以前に他の人達は……? クロードはどうしたのだろう?
 おまけに身体の感覚がすっかり元に戻っている。

「あ、あの? 魔法使い! 一体何が何だか分からないのだけど!?」

 けれど魔法使いは私の言葉が耳に入らないのか、私の名前を呼びながらますます強く抱き締めてくる。

「サファイア……サファイア……」


すると、その時頭上から今度は別の声が降って来た。

「いい加減にしなさいよ! アベル! サファイアが困っているでしょう!」

そしてグイッと魔法使いが私の身体から離れていく。

「え……?」

 見上げた私は驚いた。何と魔法使いの襟首を掴んで私から引き離したのはドラゴンのエメラルドさんだったのだ。

「え? エメラルドさん……?」

 目をパチパチさせると、エメラルドさんは私を見てにっこり笑った。

「久しぶりね。サファイア。それに…‥無事生還を果たしたことと、呪いが解けておめでとう」

「呪いが……解けた!?」

 思わず魔法使いに視線を移す。

「そうだよ、サファイア。君に掛けられた呪いが……全て解けたんだよ」

するとエメラルドさんに襟首を掴まれていた魔法使いが、まるで泣き笑いのような顔で頷いた——

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