私が蛙にされた悪役令嬢になるなんて、何かの冗談ですよね?

5-10 敵? の参上

 赤々と燃える松明の灯された大きな城門の前で、私と父は燕尾服男性に呼び止められた。

「……恐れ入りますが、招待状を拝見させて下さい」

「うむ」

父は懐から偽の招待状を取り出すと燕尾服男に手渡す。

「失礼致します」

彼は封筒から中身を取り出し、じ~っとしつこい程念入りに招待状を目視する。
父は涼しい顔をしているも、一方の私は生きた心地がしなかった。
心臓がドキドキと脈打ち、胸が苦しい。きっと、これはぎゅうぎゅうに締め付けられたコルセットだけの問題ではない! ……と断言しても良いだろう。

「……ベーグル伯爵様でいらっしゃいますね?」

何とも美味しそうな? ファーストネームを口にする燕尾服男。

「では確かに招待状拝見いたしました。どうぞお通りください」

「ああ」

父は短く返事をし、招待状を返してもらうと声をかけてきた。

「では参ろう、マリン」

「へ?」

誰ですか? マリンて!

しかし、父は笑いかけながら無言の圧を掛けてくる。そこで私はコクリと頷き、父に連れられて会場内へと足を踏み入れた。

「よし、それでいいぞ。サファイアよ。我々は名前も偽っているのだから。今からお前の名はマリン・ベーグルだ。誰かに名前を尋ねられたら、そう答えるのだよ?」

「は、はい……お父様」

それにしても、マリン・ベーグルだなんて……何故このような名前を思いついたのだろうか?
けれど、私の疑問は既にどうでも良くなっていた。何故なら今、私の目の前にはまる
で中世ヨーロッパ映画でも見ているような光景が広がっていたからだ。

「うわぁ……す、すごい……!」

巨大な広間には色とりどりのドレスやタキシードを着用した男女がにぎやかに談笑している。天井は首が痛くなるほどの高さで、巨大なシャンデリアが幾つも天井からぶら下がっている。

メイドやフットマンたちは忙しそうに飲み物を出席者たちに配っている。
まるで結婚式場の披露宴パーティーのようだ。……でも、考えて見れば似たようなものかもしれない。何しろ、これはギルバート王子の婚約お披露目パーティーなのだから。

「どうした? マリンよ。落ち着かないのか?」

サファイア父が声をかけてきた。

「い、いえ。ただ圧巻されているだけです」

他に答えようが無い。

「そうか、もうじきギルバート王子が子爵家の令嬢を連れて姿を現すだろう。憎き男の顔を目に焼き付けておくのだぞ?」
 
父がそっと私に耳打ちしてくる。

「は、はい……分かりました」

けれど、私にはギルバート王子が誰なのか分からない。焼き付けておけと言われてもねぇ……。

そのとき、会場内に突然ラッパの音が響き渡った。そして、会場内に声が響き渡る。

『ギルバート・マグワイヤ第二王子、およびイザベラ・メイプル様がお越しになりました! 皆様、拍手でお迎えください!!』

「よし、現れたな! 我らの敵が!」

盛大な拍手に紛れて、父が物騒な言葉を口走る。誰かに聞かれたらどうしようと、ヒヤリと肝が冷えたのは言うまでもない。

すると会場内の大扉が音を立てながらゆっくりと開かれ……ドレスアップした見たことの無い若い男女のペアが姿を現した――
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