亡命した貴族令嬢は隣国で神のような愛に包まれ、名家奪還の大逆転を遂げます!
カアラプシャン国編

1.契約結婚

「契約結婚ということだ、フロリアン」

目の前に立つ派手で高貴な男性は、薄笑いを浮かべながら冷酷に言い放った。しかし、私に拒否権はない。
「仰せの通りに致します、リュメル様」

──これもお家存続のため。

私、フロリアン・ベリュームは没落寸前の名家の長女で二十二歳。父の遺言に従い、この国の第五王子リュメル・シュルケン様と契約結婚をしました。そして、リュメル様の豪華な装飾品がベリューム家に運ばれる様子を、執事のディーナや使用人のユリカと共に複雑な心境で見ていたところ、リュメル様が愛人のへクセを連れて現れました。

「フロリアン、僕は君を愛していない」
「……存じております」
「僕が愛しているのはへクセだ。屋敷の中ではへクセが妻、君はただの使用人だからね。それが……」

──契約結婚なのです。

ベリューム家はかつて、カアラプシャン国の創立に貢献した由緒ある公爵家でした。しかし、散財家だった父のせいで財政が行き詰まり、跡継ぎもいない没落寸前のところ、シュルケン国王陛下が『婿養子』にとおっしゃり、救ってくださいました。もちろん、父が何でも条件を呑むと嘆願したのでしょう。だから、私は契約結婚であろうと何であろうと、我慢するしかありません。

さらに、屋敷で『妻』とされているへクセは名目上『秘書』だそうです。リュメル様は父の後を継ぎ、国の外交を取り仕切る高位の立場にあります。私設秘書がいてもおかしくはありません。しかし……私は生理的にへクセを受け入れ難かったのです。派手な化粧に露出の多い豪華なドレスをまとい、高飛車な態度を取るこの愛人を……

「ご機嫌よう、フロリアン。早速だけど喉が渇いたわね。何か冷たいワインでもいただけるかしら?」
「……え?」
私は驚きました。初対面の挨拶がこれですか?
「聞こえなかったの?お前は妻ではなく、使用人のフロリアンでしょう?」
「あ、あの、ワインなら私が……」
私が言葉に詰まっていると、ユリカが助けてくれました。
「まるっきり気が利かないわね。早く持ってきなさい!」
「は、はい!」
ユリカが急いで行く姿を見て、へクセは「ふんっ」と鼻を鳴らしました。

へクセと出会った瞬間から、私は彼女を嫌いになりました。

ただ、心の奥底では、私は彼女を妬んでいるのかもしれません。同じ屋敷に住みながら、夫に愛される愛人と愛されない妻。容姿端麗でスタイル抜群のへクセに対し、貴族であるとはいえ容姿もスタイルも平凡な私。そして何よりも、妻の立場を剥奪されて使用人扱いされているという、まさかの状況です。

ここまで不快な思いをするとは、私も甘かったです。恋愛感情のないドライな関係は理解していましたが、夫は愛人と共に屋敷に戻らない日々が続き、私はベリューム家を守る若き女主人としての役割を果たすつもりでした。

しかし、何があろうとベリューム家を存続させなければ、ご先祖様に申し訳が立ちません。やはりここは我慢するしかないのです!
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