亡命した貴族令嬢は隣国で神のような愛に包まれ、名家奪還の大逆転を遂げます!

2.使用人扱い

「フロリアン、君の部屋をへクセに譲ってくれないか?」

お屋敷の中でも特に広く、美しい湖と山々が見えるあの愛着ある部屋をでしょうか?

「……かしこまりました。私は別の部屋に移ります」
愛人に譲るなんて残念で腹立たしいけれど、私に拒否権はありません。でも、お部屋はたくさんあります。かつては多くの使用人が住み込みで働いていたのです。私はどの部屋にしようかと不本意ながら思案していると、へクセがリュメル様のお屋敷から連れてきた使用人モッペルを伴って戻ってきました。どうやらお屋敷を隅々まで探索していたようです。

「リュメル様、使用人の部屋をモッペルと見て回りました。これなら5人くらいは呼べますわ」
「おお、そうか。ならば人選や部屋割りを頼む」
「はい、お任せください、リュメル様」
え?新たな使用人を雇うのですか?そのような話は聞いていないのですが……?
「あ、あの、使用人を増やすのですか?」
私は思わず口を挟みました。だって一応ベリューム家の妻です。すると、へクセが先ほどまでリュメル様に見せていた甘い表情から一変し、鬼のような形相に変わりました。
「フロリアン、お前は使用人の分際で、家のことに口出しするんじゃない!」

──ええっ!?なんなのこの人?二重人格ですか?私はベリューム家の正統な人間ですけど!?

「フロリアン、僕は国王の命でベリューム家の莫大な負債を全て返済した。そして、しぶしぶ婿養子となったのだ。……聡明な君なら分かるよな?愛してもいない正妻に何の権限もないってことを」
「はい、そのように理解しています。負債の返済については、どのような言葉で感謝すればよいのか分かりません」
「つまりだ、これから家のことは全てへクセが取り仕切る。君は夫婦同伴が必要とされる行事のみ、妻を演じればいい」
「ですが、表向きは『妻』です。私がお屋敷のことを知らなければ妻も演じられません。権限など求めませんが、私に一言あってもよいのではないでしょうか?これではあまりにもないがしろにされすぎです」

私は心臓がバクバク鳴るのを感じながら、精一杯の意見を述べました。すると、

──パシーーン!

リュメル様の使用人で、恰幅のよい、いえ、余分な贅肉を蓄えた肥満のモッペルに、親にも叩かれたことのない私の頬を打たれたのです。

「な、何をなさるのですか!?」
「御主人様にお前如きが意見を申し上げるとは、身分をわきまえよ!」
「は──?」
私は初めて会った肥満の女に殺意を覚えました。
「ホホホホホ……フロリアン、このモッペルは使用人を管理する役職なの。つまりお前の上役ですわ」
「おいおい、僕の前で乱暴な振る舞いは控えてくれ。あまり気持ちのいいものではない」
「これは御主人様、申し訳ございません!」
「リュメル様、こういうのは初めが肝心なの。上下関係はハッキリ示しておかないと──」
「うむ……確かにそうだな。そういうことだ、フロリアン。へクセの指示に従うのだ。僕は執務室へ行ってくる」
「お送り致しますわ、リュメル様」

これは想定を遥かに超えた生活が始まろうとしています。このお屋敷のどこに私の居場所があるのでしょうか?

ヒリヒリする頬に手を当て、私は立ち竦んでいました。
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