初恋 〜この夏は、キミのために〜



「い、いえ……私、あまり遠くへは……」


 彼女の表情は、明らかに困惑しており目にはうっすらと涙を溜めていた。

 女性のそんな顔を見て、旭の中で何かがぷつんと切れた。


「そうなんだ? それじゃあ、この辺でも俺たちはーーあ?」


 色々なシュミレーションをしていたが、旭は男の腕を掴んでいた。

 女に負けていた欲望剥き出しの顔から、ナンパの邪魔をした者への眼差しは急変した。


「なに? 俺になんか用でもあんの?」

「用っていうか、その子嫌がってると思うんだけど」

「はぁ? 俺らは楽しく話してたんだよ。お前は関係ねぇだろ」


 旭への視線は険しく、3人を相手にするのはさすがに無茶かもしれないと不安な気持ちで脈が上がった。

 しかし、3人のうちの1人が恐る恐る口を開いた。


「お、おい……コイツと関わるのはやべぇって」


 男が震えた手で旭を指差し、先陣を切って旭と口論をしていた男に伝えた。


「はぁ? お前、何ビビってんだよ。ガキ1人だぜ?」

「コイツ、この町じゃ有名な悪ガキなんだよ。俺の弟なんて、病院送りだぞ?」


 旭の物騒な噂に男達の表情は引き攣った。


(コイツ、アイツの兄貴か。確かに殴った俺が悪いけど、向こうが先にやってかたからやり返しただけだろ)


 勝手なことを言われ、イライラしたが口にすることはなく奥歯をギリッと噛み締めた。


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