歌集 無言歌 I
十六の娘が春を語りをり乱れる縫いかけしずかにたたむ



うそみたいな青春だったねもも色のシーブリーズふたりわけあい



初夢をタダで見るとは虫のいい招き猫さえ乾電池を食う



からころとぽっくり笑うくるぶしは去年のミサンガゆわえてなくて



ドーピング・ラブとわらって煙吐く恋か病気か呪いか夢か



一度だけガッコで吸ってて庇われた倫理の須賀の副流煙、と



こんなにも雨のバス停夏服は透けているのだ紳士は走れ



ひとりより余計に濡れた雨でした肩寄せ合えない相合傘で



ふたりきりになれる場所はまだ遠く電話BOXくもらせる息



晩秋にあの子は咲いて散ったのだ咲かぬば散らぬと教わりながら



始発にて泣きながら帰る十六の娘に母はうどんをゆでて



あこがれに手が届きそう潮騒は夜の帷の柔毛(にこげ)を濡らし



手袋をかばんの奥にしまいこむそしたらあなた手をつなぐでしょう



何色の肌何色の目何色の色事は無色セックスしようよ



二、三回豆腐に頭突きしたら? って言われて困るなこっちも困る



「今も好き、っていったら笑う?」笑っても笑わなくても好きなの、しってる



僕のプリンそんなに食べたきゃ取る取らないで争う仲になってみないか



ミサンガをいまだ断てない足首よごめんねユウくん鋏を入れる



はさまれたドナーカードは新約の「愛は決して滅びぬ」のとこ



一日でいいからわたしより長く生きてくださいできれば笑顔で
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