歌集 無言歌 I
はつこいのひとの名で呼ぶ老犬のねむるあいだに出てゆく 春へ



アルコールセックスドラッグロックンロール毎朝やめよと朝だけ思うの



傘もないホテルも遠いわたしたち溶けて泥に戻ればよかった



あしくびを番えて生きるわたしたち枷ではなくて副木として



午后三時営業している店調べひとりで飲んでる 「バカ」とつぶやく



「おれの空」指さしたさきつかめないもののすべてが浮かんでいました



背中からうなじへ縦走する舌がなくした羽の在処を教える



絶頂は連峰として弥高くあっても視界は白、白、あなた



明朗な四則演算わたしからあなたを引くとマイナスを出す



もう嫌だもう死ぬ今死ぬここで死ぬそれがダメならラーメン食べたい



世間など冷たいくらいでちょうどよいストロー挿した金麦を吸う



ちからなく笑みを分け与えまわる夜 街娼の目にZippoともる



もえつきるまえにあなたをだきとめていっしょにそらへとのぼりたかった



クラウチングスタートであるつまずいた思い出まとめて後ろに蹴れば



生協のひとくちチョコをよ口じゅうの味維持せよ通夜の火のよに



かなしみがないのはうれしいことですかなんにもないのもうれしいですか



生きるにも死ぬにも値せぬわたしUber eatsのチップをはずむ



ウミネコも猫じゃないんだ「あいしてる」も愛じゃないんだ辞書など捨てろ



あいしてる、と口に出したらさみしさも消える気がするわたしはまだ好き



あたたかなDNAを抱きかかえ縁の途切れた敷居をまたぐ
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