運命の相手に出会いたいとわめいたら出会ってしまった夜
 会社を出ると空はもう真っ暗で、満月のはずの月は雲に隠れていて出て来ない。

「今月は今日で終わりなのに! 今日も出会わなかった!」
「誰と?」
 私が文句を言うと、隣にいる同僚の仰木くんに不思議そうに問われた。

「運命の人。今月のおひつじ座は運命の人に出会えるって書いてあったの。なのに今日も残業! 出会いナシ!」
「占いなんて信じてるの? ざっと考えて十二人に一人が運命の人に出会うって、どんだけだよ。おひつじ座同士が出会えば手っ取り早いのか?」

 仰木(おうぎ)くんに笑われて、私は口をとがらせた。

 彼は笑顔がさわやかな営業マンで、誰からも好かれている。気難しいお客様でも彼の前では笑顔を見せるというコミュ強。

 私とは好きなマンガが一緒だったことで仲良くなった。今では気の置けない友人だ。

「本気で信じてるわけじゃないよ。ちょっとしたスパイス。運命の人に出会えたらいいなあって思って過ごすのとそうじゃないのとでは、毎日のときめきが違うじゃん」

「よくわからないな、それ」
「わからなくていいよ。もういい年だし、良い人に出会うためにはいつでも出会える準備をしておかないと」

 来年で30歳だ。仕事にかまけていたら、もうこんな年になってしまった。

 ふと空を見ると、月が雲から半分ほど顔をのぞかせていた。

「そういうのって、意外に近くにいるんじゃないの? 青い鳥が近くにいたみたいに」
「いないもん」

「たとえば俺とか」
「笑えなーい!」

 私が笑うと、仰木くんはムッとした。
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