利害婚~閉じ込められてきた令嬢の初恋~
「隊長! ここは施錠されているようです!」

 先ほどとは別の男性の声が聞こえる。そして、なにやらこそこそとした話し声。

 けれど、生憎なにを話しているのかなんてわからない。とにかく、お腹が空いて頭が回らない。

「……下がれ。俺が蹴破る」

 それから、少しして。そんな声が聞こえたかと思うと――扉が吹き飛んだのがわかった。

 驚いて目を見開けば、そこには真っ二つに割れた木の扉がある。……あそこには、魔封じの術がかかっていたはずなので、素で蹴破ったのだろう。

 扉に視線をくぎ付けにされる。その所為で、その男性がこちらに近づいてきていることに気が付けなかった。

「……誰だ?」

 男性がそう問いかけてくる。……なんて答えようか。そう思ったけれど――今は、口を動かすのも辛い。

「答えろ。……誰だ」

 彼が剣のグリップに手をかけた。それに気が付いても、特別な反応をすることが出来ない。

「隊長。……この人、なんか変ですよ」

 別の男性が、二人の間に割り込んでくる。ぼうっとしてその二人を見つめた。

 ……また、ぐぅっとお腹の音が鳴る。今度は、大きな音だった。

 その音を聞いたためか、二人の男性がぽかんとしたような表情を浮かべる。だからこそ、ゆっくりと口を開く。今ならば、最低限の言葉で済むと思ったからだ。

「――お腹、空いたんです」

 ぽつりとそう零して、彼女――エルーシアは意識を失った。
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