利害婚~閉じ込められてきた令嬢の初恋~
「すみません、昼食の残りしかなくて……」

 女性は食事を載せたトレーを持って、エルーシアのほうに近づいてくる。

「軽く温めてきたので、食べる分には問題ないと思いますよ。どうぞ」

 水差しをどけて、そこにトレーをおく。トレーには大きなお皿が載せられている。そして、その上には……小さな三つのパンがある。さらには野菜炒めらしきもの、デザートなのかカットフルーツ。深い器には、黄金色のスープが注がれていた。

「……わぁ、食べて、いいんですか?」

 一応とばかりに確認すれば、女性はにっこりと笑って頷いてくれた。

 なので、エルーシアはフォークを手に取る。まずは……と野菜炒めを口に運んだ。味付けは少し濃いものの、栄養があるのがわかる。今まで食べていた野菜はほとんどが切れ端だった。だから、野菜がこんなにも美味しいものだと思わなかった。

「ねぇ、これはなにかしら?」
「そちらはコンソメスープですよ」
「……美味しそう」

 エルーシアの問いかけに、女性はニコニコと笑って答えてくれる。

 それが本当にありがたくて、エルーシアは久々に笑みを浮かべることが出来た。

(パンなんて、すっごくふわふわだわ。今まで硬いものしか食べたことがなかったから、こんなものがあるなんて知らなかった!)

 エルーシアにとって、パンとは保存のきく硬いものだった。でも、今。自分が食べているものは違う。

 柔らかくてふわふわで、口の中が幸せいっぱいになる味だ。

「ところで、ですね。食事が終わったら、色々と聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 エルーシアが食事をある程度進めた頃。女性が申し訳なさそうにそう問いかけてくる。

 ……聞きたいこと。

「はい、別に大丈夫です」

 なにを聞かれるのかは、大方予想が出来ている。それに、こんなにも美味しい食事を貰ったのだ。その恩にくらいは報いたい。
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