利害婚~閉じ込められてきた令嬢の初恋~
「私に答えられることなら、答えますから」

 女性を安心させるように微笑めば、彼女はほっと肩の力を抜いていた。その姿にエルーシアもほっとする。どうやら、彼女は緊張していたらしい。

 まぁ、得体のしれない相手と一対一で対面しているのだ。緊張するなというほうが、無理なのかもしれない。

「よかったです。あ、私はカタリーネと言います」

 女性――カタリーネが、エルーシアににっこりと笑いかけてくれる。その笑みは何処か無邪気で、愛らしいものだ。

 エルーシアの気持ちも、自然とほぐれていく。どうやら、自らも案外緊張していたらしい。

「え、えぇっと、私は――」

 折角だし……と、自らも自己紹介をしようとしたとき。不意に部屋の扉がノックもなしに開く。

 驚いてそちらに視線を向ければ、そこには美しい男性がいた。はちみつを溶かしたような金色の短い髪。その鋭い橙色の目は、一種の宝石のようだ。

 その美しい容姿は、いっそ人々に畏怖さえ与えてしまいそうなほどだと、エルーシアは自然と思った。

(なんて、お美しいお人……)

 ほうっとしつつ、彼を見つめ続けた。しかし、男性はエルーシアの視線に気が付いて鬱陶しそうな仕草を見せる。それを見てエルーシアは慌てて視線を逸らす。

「隊長! レディが使用しているお部屋なんですから、ノックくらいしてください!」

 カタリーネが隊長と呼ばれた男性に向かって、突っかかる。

 けれど、男性にその言葉は響いていないらしい。彼はその凍てついたように冷たい視線をエルーシアに向ける。

 彼の唇が動く。その動きが、まるでスローモーションのようだった。

「別にいいだろう。生憎、俺はそんな貧相な人間をレディと認識することはない」
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