利害婚~閉じ込められてきた令嬢の初恋~
 吐き捨てられた言葉は、とてもひどいものだった。

 でも、エルーシアだってわかっている。自らが貧相な人間であり、レディ扱いされないことくらい。

 (当然のことを言われて、傷つくなんてことはないわね)

 心の中だけでそう思っていれば、男性が椅子を持ってエルーシアの側にやってくる。すぐそばに腰かけて、脚を組んだ。

「……さっさと事情聴取を始めるぞ。名前と年齢、身分。ほか、諸々教えろ」
「隊長!」

 男性の傲慢な態度に気を悪くしたのか、カタリーネが声を荒げる。

 が、エルーシアはこくんと首を縦に振ってフォークをトレーの上に戻した。

「私は……エルーシアと、申します。年齢は十九です」
「家名」
「……シャウエルテ、です」

 促されて、ためらいがちに自らの家名を口にする。男性は頬杖を突きつつ、カタリーネに視線を向けた。

「と、言うことらしい。この女はあの家の人間だそうだが?」
「……戸籍には、確かに長女としてエルーシアというお名前があります。……間違い、ないかと」
「そうか」

 カタリーネの不満そうな声に、男性はこれまた淡々と言葉を返した。

 その後、彼の視線がエルーシアに向けられる。橙色の目は、何処か冷めきったようなオーラを醸し出している。温かみなんて、ちっともなかった。

「さて、今からお前に残酷な真実を告げることになる。……聞く勇気は、あるか?」
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