利害婚~閉じ込められてきた令嬢の初恋~
 唇の端を上げた男性が、そう問いかけてくる。

 エルーシアは少し迷う。視線を下げて、床を見つめた。

「まぁ、いつまでも逃げることなど、出来ないだろうがな。どう足掻いても、いつかは知るべきことだ」

 男性が抑揚のない声でそう言う。エルーシアは視線を上げられなかった。

「見たところ、ろくな扱いを受けていなかったんだろう。だから、おいて行かれたんだ」

 ……おいて行かれた。

 その言葉から連想するに。エルーシアは、大体のことを予想出来てしまった。唇を噛んで、溢れ出そうになる感情をこらえる。

「……私は、その」
「あぁ」
「あのおうちの、お荷物ですから。……だから、その。家族としても、認識されていなくて」

 口が勝手に動いて、言葉を零していく。行き場のない視線が彷徨って、男性に向けられた。彼はその美しい顔に表情を映していなかった。

「そうか。だが、それは俺にとってはどうでもいいことだ。……生憎、お前がどうなろうが知らない」
「……そ、う、ですよね」

 そうだ。この男性にとって。エルーシアはどうでもいい存在なのだ。エルーシアがその場で野垂れ死のうが、関係ないのだ。

「まぁ、保護した以上は、責任をもってしばらくは面倒を見てやる」
「ほ、ご、ですか?」

 けれど。聞きなれない単語に、エルーシアは目をぱちぱちと瞬かせた。その姿を見て、男性は眉間にしわを寄せていた。
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