返り咲きのヴィルヘルミナ

情報収集

 ヴィルヘルミナは侍女サスキアに気を付けながら、この日もマレインと共に王宮で革命の為の準備を進める。
(ベンティンク家や彼らに賛同する貴族を倒すとなれば……武力衝突は避けられないわよね……)
 ヴィルヘルミナは軽くため息をつく。
(だけど、背に腹は変えられないわ。やるしかないのよ)
 ヴィルヘルミナのタンザナイトの目には覚悟が見えた。
「マレイン、行くわよ」
「承知いたしました、王太子妃殿下」
 ヴィルヘルミナとマレインはある場所へ向かう。幸い、近くにサスキアはいなかった。
「サスキアがいないから、少しだけホッとするわ」
 ヴィルヘルミナは小声で肩をすくめる。
「確かに、彼女は何を考えているのか全く読めませんからね」
 マレインも小声で、困ったように微笑んでいた。
 二人は王宮の敷地内にある武器庫へ向かう。





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 武器庫前には、予想通り見張りがいた。
「王太子妃殿下、こちらは貴女でも立ち入り禁止ですよ」
 見張りの男がヴィルヘルミナを制する。
「あら、そうなのね。そこまで厳重に警備が必要なものがあるのね。……宝石とか、各国の珍しい品があるのかしら? (わたくし)にはそのくらいしか思い付かないのだけれど」
 ヴィルヘルミナは無知を装い小首を傾げる。
「いいえ、王太子妃殿下。宝石など貴女が想像しているようなものはありません。ここには王太子妃殿下が想像も出来ないような様々な武器がございます。全て国王陛下が集めているものですよ」
 教えてやろうと言うかのような態度の見張りである。
 ベンティンク家や彼らの派閥に入っている貴族、そして王宮内の男達は女を馬鹿にしている節がある。よって女であるヴィルヘルミナが少し無知を装えば、ペラペラと情報を話してくれるのだ。
「まあ、武器……! 戦争でも始めるのかしら?」
 ヴィルヘルミナはわざと大袈裟に驚き、タンザナイトの目を見開く。
「いいえ、妃殿下。今すぐにてはありません。いずれウォーンリー王国に攻め入るためですよ」
「まあ、そうなのね。そんなに厳重な警備が必要な程の武器なのね。それだったら一人で全ては運べそうもないわよね」
 ふふっと笑うヴィルヘルミナ。マレインは後ろで見守っている。
「当たり前ですよ。この武器庫にある全ての武器を運び出すのに我々見張り全員でも足りないくらいですから」
 見張りの男は得意気に話している。
「まあ、大変ね。だけど、少しは気が抜ける時くらいあるのではなくて?」
 ヴィルヘルミナはふふっと微笑み、首を傾げる。
「まあ……確かにそうですね。王宮内で騎士団の訓練がある日なんかは、武器庫よりもそちらに注意がいくので、少し気を緩めることが出来ると大半の者が申しておりますよ」
「あら、そうなの」
 ヴィルヘルミナはふふっと微笑む。
「お仕事中失礼したわ。ご無理のないようにね」
 ヴィルヘルミナは柔らかな笑みを浮かべ、武器庫を後にした。




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「王太子妃殿下、それで、何か情報は得られたのですか?」
 マレインがクリソベリルの目を優しく細める。ヴィルヘルミナを信頼していると言うかのような表情だ。
「ええ。大体の武器の量と、警備が手薄になる時が分かったわ」
 ヴィルヘルミナは品良く口角を上げる。
「まず、この情報をラルスお義兄(にい)様経由で騎士団に紛れ込んでいる革命推進派に引き渡すわ。(わたくし)は表立って動けないから、騎士団の中の革命推進派方々にこっそりと武器を盗んでコーバスさん達に流す。これが出来たらかなり革命推進派の戦力は強くなるわ」
 革命推進派の集会には、少しずつ貴族達も参加していて勢いが増している。やはり貴族の中にもベンティンク家へ不満を持っている者達が少なくないのだ。
「そうですね。では……」
 マレインはそこで黙り込む。どこか一点をじっと見ていた。ヴィルヘルミナは怪訝に思い、マレインの視線の先へ目を向ける。
 そこにはサスキアがいた。
(確かに、サスキアの前では滅多なことが言えないわね。彼女がベンティンク家側なのか、そうでないのかが全く分からないわ)
 ヴィルヘルミナは警戒心を強めた。
 サスキアはカーテシーでヴィルヘルミナに礼を()る。
「サスキア、楽にしてちょうだい。お茶会の件よね」
 ヴィルヘルミナは品の良い笑みを浮かべている。この後、王妃フィロメナ主催のお茶会があるのだ。このお茶会はベンティンク家の威厳を見せつける為に定期的に開催している。正直、ヴィルヘルミナは乗り気ではないのだが王太子妃という立場上出席せざるを得ない。
「ええ。お茶会用の新しいドレスをご用意しております。そろそろ着替えられた方が良いかと存じますわ」
 サスキアは妖艶な笑みである。
「王太子妃殿下、それでは僕はここで一旦失礼します」
 マレインはヴィルヘルミナに礼を()り、その場を一時的に離れるのであった。
 ヴィルヘルミナはそのまま自室で着替え、憂鬱なお茶会をやり過ごすのであった。
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