線香花火のようなあの夏の恋
監督の掛け声で、騒がしかったのがシーンと一気に静まり返った。



「俺には花梨だけなんだ。花梨だけが、誰よりも特別で大切で…好きなんだ」


「私も、君のことがずっと前から好きだったよ」



ここで速水くんが私を引き寄せて、キスのフリをする予定だ。


グイッと速水くんに頭の後ろに手を回され、引き寄せられる。


そっと目を閉じて、カットの合図が来るまで待つ。



「…カット!いいね、二人ともいい感じだったよ」


「ありがとうございます」



速水くんが監督に笑顔で返しているのを、遠くからぼーっと眺める。


…今、唇に何かが触れた気がした。
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