きみと溶ける、深海まで
ロビーに到着したのは私が最後だった。

「すなお!遅いから迎えに行こうとしてた」

「ごめん」

翠が「もしかして具合悪い?」って顔を覗き込んでくる。
そんな様子を女子二人がニヤニヤと見ている。
気まずい。

「え、素直さん、大丈夫?」

「全然元気……っていうか、″素直さん″ってなんかアレだからそんな敬称いらないですよ……!」

「そう?っていうかなんで敬語なの!えっとじゃあ、俺らも″すなおちゃん″でいい?」

「うんっ!」

そんなやり取りも女子二人はニヤニヤと見ている。
きっとこの二人、すごくいい人達なんだと思う。

「よーし!みんな揃ったし行こぉー!」

グミちゃんがロビーで片腕を突き上げて大きな声で言った。

巫女ちゃんに注意されたけれどグミちゃんはお構いなしだった。

「ハシャぎ過ぎたら怪我するからね!」ってお母さんみたいなことを言いながら
巫女ちゃんがグミちゃんの背中を追いかけた
男子達もその後ろからハイテンションでロビーを出ていく。

「翠、私達も……」

「あれ、翠。今日だったんだ」

翠のほうを振り返ったらもう一人、翠を呼び止める人が居た。

翠と、翠……?

違う。この人は、

(あい)!あれっ、藍も今日だっけ!?」

翠の双子のお兄さん。藍くんだ。
本物、初めて見た。

「うん。えーっと、」

ジッと見ていたら藍くんとばっちり目が合ってしまって慌てて逸らした。

「あっ……素直です、初めまして。翠の……」

「あー、すなおちゃん、ね。きみかぁ」

「え?」

「よく知ってるよ。翠はきみの話しかしないから」

「藍!余計なこと言うなよ」

「あはは、ごめんね」

「盛ってるだけだからっ」

翠がイジけた子どもみたいな目をして私に耳打ちした。
すぐそばで鼓膜を揺らす翠の声が、遠くに聴こえる気がした。
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