きみと溶ける、深海まで
翠はすごく優秀だ。
入学式でも入試の成績が主席だったから入学生代表の挨拶もしていた。

どうしてお兄さんと同じ進学校に通わなかったのかと訊けば、
「入学にこじつけられたからって″ついていける″保証なんてないからね。俺はやだよ。青春を死に物狂いで勉学に捧げるのは」なんて言ってたっけ。

ついでに言うと、間宮兄弟を……いや、″間宮財閥″を知らない人間は県内どころか日本中でだっていないんじゃないかと思う。

数多くの複合施設。
レジャー、エンタメ、テーマパークなどなど。
手掛ける事業も年々幅を広げているとか…。

間宮兄弟はそんなモンスター財閥界の御曹司だ。

スムーズに行けばお父様の跡取りは長男であるお兄さんになるだろうと翠は言っていた。
ほんの少し遅く生まれただけの差に卑屈になる素振りも見せずに。
むしろお兄さんの存在こそが自分の自慢であるみたいに。誇らしげに。

私はお兄さんにはまだ会ったことがないけれど
翠と同じくらい気さくでお茶目で無邪気なんだろうか。

翠を言葉で表すなら本当にこんな感じだ。

くりくりの目に、なぜかキュッときれいに上向きのまつ毛。量も豊富。
ビューラー、マスカラ知らず。
嫉妬しちゃう。

筋肉の動きでムリをしているわけでもなさそうなナチュラルに上がった口角。
ちっちゃい骨格。

腕を見れば浮き上がった血管の筋。
程よくついた筋肉。
男性特有の骨骨した手の甲。
長い指先。

それでいて気さくでお茶目で無邪気で人懐こい。

こんなアートみたいな人間がもう一人存在しているなんて非現実的だ。
不公平だとも思う。

鏡を覗かない限り、自分で自分の顔が常に見えていなくて本当によかったと心底思う。
こんな人間の隣で自分の顔をずっと認識してなきゃいけないなんて地獄だ。

平々凡々。
何を取っても普通の私と翠は本来なら生きる世界が違うはずなのに。
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