きみと溶ける、深海まで
「ごめん、なんだっけ」

「ひっでーなぁ。ちゃんと俺の話聞いててよ、すなおー」

すなお。

私の名前。

素直。
本名だ。フルネーム。

初対面、特に学生の新学期なんかは繰り返し行われる自己紹介で、
大抵はふざけてるのかと思われがちだけど。

別にこの名前が嫌いなわけでもない。

キャッチーだし、
覚えてもらいやすいし。
名前がきっかけで友達ができることも少なくなかったし。

なんて思えるようになってからは自己紹介だけ我慢すればいいから気持ちはマシになった。
って言っても、めちゃくちゃ社交性に優れているわけではない私は、
″友達″を持続させることは苦手だった。

一学期が終わるっていうのに、気兼ねなく話せるのも、翠しかいない。

「ごめんごめん。こうも暑いとさぁー」

「だから、藍がさぁ」

「うん」

(あい)
翠の双子のお兄さんの名前だ。

二人とも名前まできれい。

「俺らとおんなじタイミングで期末の結果が戻ってきたわけ」

「そうなんだぁー」

翠は当然のように学年一位だった。
私は試験の結果まで、ちょうど学年全体の真ん中くらい。
赤点を取っていないだけ優秀だと思う!
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