きみと溶ける、深海まで
「翠とっ……藍は本当に仲がいいんだね」

話をはぐらかそうとしたら焦りからかちょっと声が大きくなってしまった。

私と藍の間の共通点なんてやっぱり翠のことしかなかった。
救世主だ。

だけど藍は少しだけ悲しそうな目をした。

「そうだね。喧嘩なんてほとんどしたことないかも」

「珍しいね。男の子の兄弟って大人になるまでは喧嘩が絶えない、みたいな話よく聞くけど。双子だと尚更そうなんだと思ってた」

「喧嘩する理由がそんなになかったからね。お互いにお互いを挑発しようとも思わないしそれぞれの得意分野を尊重してきたし。なんなら一番近い味方って感じ」

「へぇ。すてき」

「少なくとも翠はそう思ってくれてるんじゃないかな。たったちょっとの差でも一応俺はお兄ちゃんだからね。そんな可愛い弟の為なら頑張っちゃうわけです」

「そうだよね。翠は本当に藍のことを尊敬してる」

「でしょ」

この観覧車は一周二十五分くらいだってスタッフのお姉さんが説明してくれた。
まだ十分も経っていない。
頂上までもたぶんもう少しかかる。

それでも普段の生活では見下ろせない高さまでは来ている。
頂上に辿り着けばどのアトラクションよりも高いところに私達は浮いてしまうのだろう。
全部がどんどん小さくなっていく。
全部、どうでもよく思えてくる。

「怖い?」

「え?」

不意に私の口から飛び出した言葉に藍は目を丸くした。
そりゃそうだろう。
突然何を言ってるんだろう。

なのに、躊躇なくスラスラと言葉が紡げたのは
ゴンドラがどんどんと高い位置に連れていかれるにつれて
藍が表情に張り付けた悲しみが濃くなっていっている気がしたから。
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