きみと溶ける、深海まで
「たった一日で特別だって自惚れていいのなら教えて」

「んー?」

「何か隠してるよね」

「……そりゃあね。すなおに言ってないことなら山ほどあるよ」

「ううん。たったの、昨日のこと」

「昨日?」

「砂浜で……海で何にをしてたの?」

「それなら言ったでしょ。息抜きだよ」

「うそ」

「なんで?」

「ボトムの裾、濡れてたよ」

「……暗いところでよく気づいたね」

「藍が言ったんだよ。長い時間居れば目が慣れてくるって」

「そうだね。嬉しいな。そんな些細な会話まで憶えててくれて」

「些細な会話まで憶えちゃってるんだよ。″違和感″ならもっと忘れられない」

「死ねるかなって思ってさ」

唐突だった。

何かもうワンクッション、私が何か投じない限り、藍からのアクションは無いと思っていた。

あまりにも唐突で、
あまりにもライトな口調だったから、
その言葉が本来持つ意味の重さを失っていた。

「冗談?」

「だったら良かったんだけどね」

「そうだよね」
< 37 / 86 >

この作品をシェア

pagetop