きみと溶ける、深海まで
ゆっくり、ゆっくりとゴンドラが地上へと近づいていく。
もうアトラクションよりもビルのてっぺんよりも私達は低くて小さい。

「藍、」

「すなお」

意を決したように名前を呼んだ私を、藍は静止した。

「うん……」

「タイムオーバーだ」

スッと流れるように、いや実際に流れているんだけど、
なんの振動も感じない、水みたいな流れでゴンドラが出発点に戻ってきた。

ゆっくりと流れ続けるゴンドラの扉がスタッフさんによって開けられて、
私達は二十五分ぶりに地上に足をつけた。

迷いなく歩いていく藍の背中を追う。
顔が見たくて見上げたら灼熱の太陽が眩しくて、表情はよく見えない。

「藍、どこに行くの。何かに乗りたいの?」

「こっち」

答えを教えてくれないまま進んでいく藍についていくだけの私。
今頃みんなはどんなアトラクションを楽しんでいるんだろう。

確かこのテーマパーク、
今年は本格的なお化け屋敷を展開すると話題になっていた。

あの男子達のことだから入りたがって、グミちゃんと巫女ちゃんを怒らせているに違いない。

そんなことを考えていたら急に藍が立ち止まった。

なんにも無い、ただの更地が広がっている一画。
振り返ればメルヘンな景色が急に異質に思えてくるくらいの殺風景。

アトラクションが鳴らす轟音、
悲鳴や笑い声、
パーク全体を包む軽快なポップミュージック。

全てが別世界からの音みたいだった。
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