きみと溶ける、深海まで
藍の笑った顔が好き。
名前を呼んでくれる口調が好き。

「ありきたりでもいいなら叫び続けるよ。藍がそれでいつかは泣けるのなら」

「泣ける?」

「うん。お兄ちゃんも、ヒーローのふりしてることにも疲れた時に。もうたくさんだって泣ける場所があるんだよって、それを藍が知っていたら少しはラクでしょ?」

「……そうだね。すなお」

「ん?」

「俺は一つ、翠を裏切るよ」

「裏切るって?」

「きみは翠の宝物だ。唯一、俺に譲りたくなかったもの。それがきみなんだ。でもね、これだけは翠のカタチじゃなくて、オマージュなんかじゃなくて。ヒーローでもなんでもない、俺は裏切り者になる。すなお、たった一日の軽い気持ちだって思わないで」

「うん」

「俺にはきっときみが必要だ」

「……うん」

「翠のヒーローを辞める。きみが唯一の毒になって」





あんな浅瀬で入水しても
たとえ深くまで潜ってしまっても
きっと這い上がってあなたは生きたはずだよ。

そう言った私に、藍は笑って、完璧じゃない自分を教えてくれた。

「きっと死んでたよ。だって俺、泳げないから」って。
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