きみと溶ける、深海まで
ホラーハウスの前には思いのほか行列ができている。
なんでわざわざお金を払ってまで恐ろしい目に遭いたいのか分からない。

でも、と考えてみる。

お化け屋敷。暗室。きっと演出ですごく涼しくしてる。
……こんな灼熱地獄のほうが恐ろしいかもしれない。
ホラーハウスで涼んだほうが賢い気もしてきた。

それよりももっと予想外だったのはグミちゃんだ。

私達が到着したら楽しそうにケラケラ笑って男子の一人を茶化している。

「みんな、お待たせ。ごめんね、遅くなっちゃった」

「ねぇすなおちゃん、聞いてよぉー」

「ん?」

「この人ってばさ、ホラーハウスなんて死んでも入らない!って駄々こねちゃってさ」

「駄々なんかこねてねーだろ」

「でも相当ビビってたよな」

翠も笑いながら応戦する。

「入ったの?」

ホラーハウスを指差して聞いた私に巫女ちゃんが「もちろん。夏の醍醐味でしょ」って答えた。

入口にはアテンド係だと思しき男性。
大き目の手持ち看板を、体を左右に揺らしながらいろんな角度から見えるように掲げている。

赤い血塗られたような文字で
「アトラクション退場後、どのような事象に関しましても責任は負いかねます」と大きく書かれている。
ここからではその文字くらいしか読み取れないけれど
相当不安を煽る注意書きだ。

「結局こいつは入んなかったんだよ。アレに入るくらいならここで一生分の汗でもかいてるほうがマシだって」

もう一人の男子が言った。
グミちゃんが「情けないなぁー」っておどけるように言った。

案外グミちゃんも巫女ちゃんも平気なんだ。
もしも別行動をしていなかったら私もここで灼熱地獄に耐える組だっただろう。
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