きみと溶ける、深海まで
「いやいや……絶品って……そりゃそうだろうけど」

さすがの巫女ちゃんも表情が引きつっている。
男子達も顔を見合わせて困惑中。

「だって予約必須でしょ?」

恐る恐る翠を見たら、分かってないなぁって言いたげに、したり顔で人差し指を振られた。

「してるに決まってるだろ」

「いやだってこんなん……私達が手出せるわけないじゃん!」

「出させるわけないだろ。まったくー。誘ったのは俺なんだから。カッコくらいつけさせてよ」

「いやレベチすぎ」

巫女ちゃんの声はもはや呆れている種類のものだった。
みんなが困惑する中でグミちゃんだけが「お姫様みたい……!」ってときめいている。

本当に、来世はグミちゃんになりたい。
ポジティブで、起こる事象全部がキラキラしていて。
なんてすてきな女の子なんだろう。

入店後からの記憶は曖昧で、
何を喋ったのか、どんな風に過ごしたのか、正直あまり記憶にない。

予約してくれていたコースランチ。
翠が元々予約してくれていたもので、藍に「奢りな!」なんて言っていたけれど
結局お会計は双子が仲良く受け持ってくれた。

夏らしい冷製スープ
有機野菜の前菜
魚介たっぷりのトマトクリームパスタ
一口、お味を楽しみなさい、ってサイズのリゾット
仔牛の……やわらかすぎるメインディッシュ
夢みたいな舌触りのパンナコッタ
添えられたベリーの酸味が後味をスッキリさせてくれる。
食後には一生飲むことは無いだろう、名前も憶えきれないドリンクが提供された。

カトラリーが僅かに立てる音すらも罪に思えて
私達はウィスパーボイスを駆使し、できるだけ体を硬くして過ごした。

双子達はさすがのもので、
二人を纏う空気は″日常″だった。
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