きみと溶ける、深海まで
「はい」

ベンチに座って待っていたら翠が自販機で買ったジュースを渡してくれた。

エメラルドグリーンの缶にゴールドのアップルが描かれている。

「ありがとう。サイダー?初めて見た」

「六月くらいから売ってるよ。りんご味のサイダー。おすすめです」

ブルタブを弾くとプシュッと小気味いい音。
一口飲んだらサイダーが口内でシュワッて鳴って、酸味が広がっていく。
夏の味、って思った。

「やっぱ誰も居ないな」

「ね。盲点だよね。出店で買ったもの、ここならゆっくり食べられるのに」

「確かに。まぁ、ああいうとこで食べるのが醍醐味なんだけどな」

「あはは。それはそう」

私の隣に座ってジャケットを(かたわら)に置いた翠はグッと背伸びをした。

「あー……やっと落ち着いた」

「お昼、どこか行ってたの?」

「んー」

「見慣れない服」

「商談、って言ったらちょっとかっこいいだろ」

ニッて歯を見せて笑う翠。
彼らしい無邪気な笑顔が、今日の服装には似合わなかった。

翠が、翠じゃなくなっていくみたいでちょっと寂しくて、
でもたぶん、藍じゃなくて翠がこうあるべきなんだと思う。
< 58 / 86 >

この作品をシェア

pagetop