きみと溶ける、深海まで
藍が現実に苦しんでいても、翠の期待に応えたかったのは本心だ。
いつまでもかっこいいお兄ちゃんでいようと、
翠の中でヒーローとして輝いていたいと願ったのも藍にとっては嘘なんかじゃない。

だけど今、藍の荷物を軽くしようとしている。
自分に与えられた才能に、使命に、運命に向き合って。

ずっと隣に居てくれたのに、
翠はきっとずっと自分の″全部″で私と向き合ってくれていたのに。

なんで翠との時間と対比しても、
たった一瞬で藍を求めてしまったのか、言語化なんてできない。

理屈で説明できるのならそうしたかった。

藍を好きでいることを翠への裏切りだなんて思いたくない。
翠の言う通り。
そんな悲しいものにしていいはずないんだ。

私達の恋が御伽話なら。

翠の恋もきっと、誰もが憧れるキラキラで甘いお話になっていたはずなのに。

翠も藍もヴィランなんかじゃない。

お互いを想い合って、誰かを大切にしたくて、もがいて。
なのになんで生きていく先で誰かが傷つかなきゃいけないんだろう。

誰かを傷つけてでも絶対に譲れないものができてしまうんだろう。
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