きみと溶ける、深海まで
特急列車に乗り込むホームへの改札前で待ち合わせをした。

地元の街で遊ぶ感覚とおんなじくらい、
私も藍も軽装だった。

夜なのに、もう夏が終わろうとしているのに蒸し暑くて
背中にはじんわりと汗が滲んでいるのに、インナートップスの上に羽織ったくすみブルーの藍のシャツがぬるい風に揺れて、
柔軟剤のいい香りがした。

「やっぱり人、少ないね」

「シーズンも終わったからねぇ」

「でもホテルのそばのプールは温水になるんでしょ?」

「今はね、プールはちょっと休業中なんだ。夏の間頑張ってくれたプールの清掃とメンテも兼ねてね」

「なるほど。再開するの楽しみだな」

「行きたい?」

「うーん……その為にはダイエット頑張んなきゃ」

必要ないよって藍は私の頭を撫でた。
見たことないくせにっ!

オフシーズンで、しかもこんな時間から向かう人は当然少ないから自由席で十分なのに
藍は先に購入してくれていた指定席のチケットをくれた。

「いくらだっけ」

「貰うわけないでしょ」

「でも……!」

「俺さぁ、まだすなおにかっこいいとこ、見せれてないんだよね」

「え?」

「この前も、ぜーんぶ翠に持ってかれてる」

「そう、だった?」

「今日はさすがにかっこつけさせてよ、ね?」
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