きみと溶ける、深海まで
用もないのにスマホをタップして、中学の同級生のSNSを眺めたり、
おすすめで流れてくる広告にまんまと目を引かれたり、
読みかけの電子書籍をなんとなく読んでみたり、全部“なんとなく”で時間を潰していった。

ふと景色が流れていく車窓を眺めたら、
いつのまにか知らない風景に変わっている。

暮らしている街よりもずっと緑が多くて山が多くて、空が高い気がする。
空が高い気がするのは完全に“非日常”に対する感情論だと思うけど。

それでも、窓に反射した自分の顔がさっきよりは穏やかに見えて、嬉しかった。

「ふあー着いたぁー!」

目的地の駅で特急列車が停まる。
ゴロゴロとキャリーケースを引いて列車を降りたら、もわっとした分厚い空気と、生ぬるい風に包まれる。

ほんの少し、汐の香りを感じた。

背伸びをした女子が首を左右に折り曲げたらポキポキって音がした。

「おばあちゃんじゃん」って笑う男子の背中を、女子が思いっきり叩いている。

「先にチェックインしちゃお。荷物邪魔だし」

そう言って翠が私達を先導してくれる。
修学旅行みたいに、みんなお行儀よく翠に連れられて歩いた。
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