きみと溶ける、深海まで
特急列車がゆっくりと走り出して、徐々にスピードを上げていく。
景色が流れていく、はずの車窓には
外が真っ暗だから車内の私達の顔しか映し出さない。

目を凝らして流れていっているはずの景色を見ている、ふりをして
通路側に座っている藍を盗み見た。

前回の帰りのバスで藍は一人で座っていたから
こうやって隣に座るのは初めてだった。

二人だけの空間、ではないんだけど
こんなに近くに藍が居るのは観覧車に乗った時以来だった。

いろいろと話したいこと、
藍もきっといっぱいあるんだろうけど、それは今じゃないって分かっていたから
私達はただ列車に揺られていた。

「ご飯、食べてきた?」

「ううん。お昼は食べたけど。藍は?」

「俺も」

「おうちの人に言ってきたの?」

「俺は男の子だから別にー」

「えー。ダメだよ。まぁ……私が翠に言っちゃったけど」

「翠に?」

「ん。お母さん達にさ、旅行の時のメンバーで夏休み最後にお泊まり会したいって言ったんだよね。さすがに翠のお兄ちゃんって言っても、男の子と二人で……とは言えなくて。それで口裏合わせで……ごめんね?」

「大丈夫だよ。翠も、きっと」

「ん」
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