きみと溶ける、深海まで
最終の特急列車はあの時と同じ駅で私達を降ろした。

海辺だからだろうか。
地元の駅よりも空気の圧が薄くて、呼吸がしやすい気がした。

予定通り。
二十二時の少し前に到着した。

藍と並んで静まり返った改札を抜けて街灯の光もまばらになった道を歩いた。

汐の香りがどんどん濃くなっていく。
波の音が鼓膜に近くなってきて、
残像になりつつあった、あの夜ここで見た藍の姿が隣を歩く藍と重なっていく。

砂浜に降り立つ石階段を下ったら「気をつけて」って藍が手を差し出してくれた。
自分でもナチュラルにその手に自分の手を重ねた。

ゆるく握り返される手のひら。
よくあるアスファルトの上だったらこのイベントは発生しなかったかもしれないなんて不埒なことを思った。

藍とこうやって並んで海の音を聴いているだけで何時間でも過ごせそうだった。
現にもう私達には今夜中に帰る手段は無いし、
今夜なら全てが強制的に許される気がした。
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