きみと溶ける、深海まで
「八重歯」

「え?」

「藍って八重歯だったんだね。気づかなかった」

「あー、あはは。そうだよ」

「翠には無い物」

「一卵性双子の見分け方」

「ほんとうだ」

「聞いたかもしんないけど、翠がね、言ったんだ。″すなおの隣にずっと居たんだ、バカでも気づく。これだけは絶対に譲りたくなかったんだけど本当に好きな子の幸せを守ってやれる男で居たいから″って」

「翠……」

「俺へのご褒美、だとも言ってた」

「ご褒美?」

「″ずっとごめん″って。″藍に押し付けてることも、都合よくお前を長男として崇め称えてたことも自覚してる。俺は本当に藍のことが好きだからくだらない継承争いとかも興味がないし、だったら順当に藍がやればいいじゃんってシンプルに思ってただけなんだ。でも本当は気づいてた。藍が俺になろうとして苦しんでたこと。ずっと将来を、家族を、俺の期待を守ろうとして頑張ってきてくれたこと。だから″すなお″は藍へのご褒美なんだと思う。藍が怯えて壊れかけた心を救える救世主なんだろう″って。すなお、きみもずっと苦しかったんだね」

「え…」

「翠はね、″俺ではだめなんだ″って言ってたよ。別にいじめられてるわけでも、家族と不破がありそうでもないのにすなおはずっと何かに怯えてる。誰も何も言ってないのに孤独でいることが義務みたいな空気を纏ってただジッとしてるんだって。本当は喋りたいことも伝えたいこともいっぱいあって、嬉しい時に嬉しいって可愛い顔で笑うこともできるのにって」

「翠ってばそんなこと」
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