ゆ・び・き・り
……
今、エンゲージリングって……?
「私が好きだったのは同い年の幼なじみだったの。気がついたら一緒にいた」
指輪を嵌めなおすと、ひかりさんは俯いて話を始めた
「身体が弱くていつも入退院を繰り返していた。中学から高校ぐらいかな、少し落ち着いたんだけど、高2に入った頃、次に大きな発作を起こすと危ないって言われて、私はそのことを知らなかった。気まずい思いをしたくないから言わないつもりだったの。でも、」
ひかりさんはカップに口をつけると、ひとつ大きく息を吐いた
「高2の体育大会で、ポロっと小笠原先生が喋っちゃって。院長先生、彼のお父さんが純也、私の好きだった人の担当医だったの、だから偶々聞いちゃったみたいで」
喋ってしまったことは責めてない、むしろ知って良かった
「それが決め手かな。告白したの」
顔をあげたひかりさんの表情は、明るく、奇麗で
カッコよかった
「その年のクリスマスプレゼントがこの指輪。自分がいなくなった後、絶対誰がと幸せになれって、自分は左手に嵌めたくせに。……高3の春に届かない所に逝ってしまった」
「……ひかりさんは今でも?」
「たぶん最初で最後の守れない約束だと思う」
「ひかりさん……」
「千里ちゃん。会長のことよろしくね」
告げられた言葉に思わず眼を見開いた
「私、もう少ししたらアメリカに行くの。力をつけるために」
「お兄ちゃんにとっては私は永遠に妹です」
「でも、会長は千里ちゃんを大切に思ってるわよ。それに何より千里ちゃんが会長を思ってくれているのがよくわかるから。紅茶御馳走様」
立ち上がり小さく笑ったその姿は
一輪の花
お兄ちゃんがひかりさんを好きになった理由(わけ)が少しだけわかった気がする
「賢お兄ちゃん」
ひかりさんの訪問から数週間後
私はお兄ちゃんの家を訪れた
「千里。この間は悪かったな。果物助かった。おばさんにもお礼言っといて」
「うん。……お兄ちゃん。ひかりさんのどこに魅かれたの?」
ずっと聞きたくて聞けなかったこと
「……千里」
「あの日、ひかりさんがうちに来たの。忘れ物届けに。その時に高校の頃の話を聞いた」
大きく息を吐くとお兄ちゃんは口を開いた
「見ているこっちが心配になるくらい一生懸命な姿。あいつの視線は水無月にしか向いていなかったのに、それすらも応援したくなるようなひた向きな強さに魅かれた」
「ひかりさんが今でもその、水無月さんのことを思っていても好きなの?」
「ああ。水無月との約束もあるが関係ない。好きだ」
お兄ちゃんにとって私はやっぱり妹
切れてしまったストラップ
新しく始めるべきなのかもしれない
「お兄ちゃん。頑張ってね」
ちょっぴりだけど話して思った
強さの中に寂しさを、優しさを持った女性(ひと)だ
「結構強がりだから誤解されるけど、だからこそ余計傍にいたいと思うのかもな」
うん。お兄ちゃん
「千里?」
「ひかりさん、頑張って捉まえてね」
ひかりさんが、思い出の彼を語るとき、過去形だったことは二人だけの秘密だ
「生意気言うな」
髪をかき混ぜるお兄ちゃんの大きな手
お兄ちゃんを好きになった時から何も変わっていない
「じゃあね。お兄ちゃん」
「ああ」
扉を閉め、家路を歩くと涙が止まらなかった
でも不思議と負の感情はなかった
お兄ちゃんが後悔するような良い女になってやる!
見上げた夕焼けが背中を押してくれるように思えた
fin
今、エンゲージリングって……?
「私が好きだったのは同い年の幼なじみだったの。気がついたら一緒にいた」
指輪を嵌めなおすと、ひかりさんは俯いて話を始めた
「身体が弱くていつも入退院を繰り返していた。中学から高校ぐらいかな、少し落ち着いたんだけど、高2に入った頃、次に大きな発作を起こすと危ないって言われて、私はそのことを知らなかった。気まずい思いをしたくないから言わないつもりだったの。でも、」
ひかりさんはカップに口をつけると、ひとつ大きく息を吐いた
「高2の体育大会で、ポロっと小笠原先生が喋っちゃって。院長先生、彼のお父さんが純也、私の好きだった人の担当医だったの、だから偶々聞いちゃったみたいで」
喋ってしまったことは責めてない、むしろ知って良かった
「それが決め手かな。告白したの」
顔をあげたひかりさんの表情は、明るく、奇麗で
カッコよかった
「その年のクリスマスプレゼントがこの指輪。自分がいなくなった後、絶対誰がと幸せになれって、自分は左手に嵌めたくせに。……高3の春に届かない所に逝ってしまった」
「……ひかりさんは今でも?」
「たぶん最初で最後の守れない約束だと思う」
「ひかりさん……」
「千里ちゃん。会長のことよろしくね」
告げられた言葉に思わず眼を見開いた
「私、もう少ししたらアメリカに行くの。力をつけるために」
「お兄ちゃんにとっては私は永遠に妹です」
「でも、会長は千里ちゃんを大切に思ってるわよ。それに何より千里ちゃんが会長を思ってくれているのがよくわかるから。紅茶御馳走様」
立ち上がり小さく笑ったその姿は
一輪の花
お兄ちゃんがひかりさんを好きになった理由(わけ)が少しだけわかった気がする
「賢お兄ちゃん」
ひかりさんの訪問から数週間後
私はお兄ちゃんの家を訪れた
「千里。この間は悪かったな。果物助かった。おばさんにもお礼言っといて」
「うん。……お兄ちゃん。ひかりさんのどこに魅かれたの?」
ずっと聞きたくて聞けなかったこと
「……千里」
「あの日、ひかりさんがうちに来たの。忘れ物届けに。その時に高校の頃の話を聞いた」
大きく息を吐くとお兄ちゃんは口を開いた
「見ているこっちが心配になるくらい一生懸命な姿。あいつの視線は水無月にしか向いていなかったのに、それすらも応援したくなるようなひた向きな強さに魅かれた」
「ひかりさんが今でもその、水無月さんのことを思っていても好きなの?」
「ああ。水無月との約束もあるが関係ない。好きだ」
お兄ちゃんにとって私はやっぱり妹
切れてしまったストラップ
新しく始めるべきなのかもしれない
「お兄ちゃん。頑張ってね」
ちょっぴりだけど話して思った
強さの中に寂しさを、優しさを持った女性(ひと)だ
「結構強がりだから誤解されるけど、だからこそ余計傍にいたいと思うのかもな」
うん。お兄ちゃん
「千里?」
「ひかりさん、頑張って捉まえてね」
ひかりさんが、思い出の彼を語るとき、過去形だったことは二人だけの秘密だ
「生意気言うな」
髪をかき混ぜるお兄ちゃんの大きな手
お兄ちゃんを好きになった時から何も変わっていない
「じゃあね。お兄ちゃん」
「ああ」
扉を閉め、家路を歩くと涙が止まらなかった
でも不思議と負の感情はなかった
お兄ちゃんが後悔するような良い女になってやる!
見上げた夕焼けが背中を押してくれるように思えた
fin