ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 長々と手首を捕まれ続け、恋仲と疑われて自主退職を勧告されるのだけは回避しなければならない。

 私は総支配人が仕事モードのスイッチに切り替えられるよう配慮をしてから、言葉を紡ぐ。

「山田様の見送り、ありがとうございました」
「ああ。謝罪をする理由がわからないと拒否されたら、どうしようかと思った」
「しませんよ。そんなこと。今回ばかりは、こちらの不手際だと認識していましたから」
「そうか。昨日の今日で、もう自然と宿泊客に対して笑みを浮かべられると思っていなかった。偉いな」

 ――やっぱり私、山田様の応対をした際は笑顔だったんだ……。

 総支配人から褒められて、喜んでばかりも居られない。
 彼は勘違いしているようだけれど、あれは私の意思によって浮かんだものではないからだ。

 ――慎也さんを、幻滅させたくない。

 そう思うけれど、逃げてばかりもいられなかった。

 彼が上司である限りは。
 ちゃんと、打ち明けなければならないことだと知っているから。

「――無意識、でした……」
「そうか。なぜ、自然と笑みが浮かんできたと思う」
「……わかりません」
「いや。よく考えてみてくれ。君の中に、答えがあるはずだ」

 私の中に?
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