ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません

９・噂話

　同僚から一緒に食事をしようと誘われた。
　そんな機会など入社当初に何度かあったくらいで、最近はご無沙汰だ。

　断ると角が立つのではないかと思って渋々一緒に昼食を取ることになったけれど……。
　質問内容を耳にした私は、来なければよかったと後悔していた。

「ねぇ。支配人と内宮さんって、できてるの？」

　ああ、やっぱり来たか。

　総支配人に名前で呼ぶ許可を与えれば、当然こうなることは予想できた。
　昨夜秋菜と険悪な雰囲気にならなければ、彼女と食事が取れたのに……。

　あの子には頼れないと、警戒せずにノコノコ一人で誘われるがままに着いてきた私が悪い。

　ずっと一緒には居られないとこちらから拒絶しておいて、都合のいい時だけ擦り寄るわけには行かないだろう。

　私はじっと、黙って同僚達の攻撃を受け流すと決めた。

「さすがにそれはないでしょー。総支配人は、昨日出向してきたばかりよ？　元々知り合いじゃない限り、距離を縮めるなんて無理よね？」
「鉄仮面女が仏頂面な理由は、御曹司の彼氏がいたから!?　きゃーっ。ロマンティック～！」

　二人の同僚女性達は、当事者の私が無言なのをいいことに大盛り上がりしている。

　仏頂面で接客をしている理由は総支配人と交際していたからではないけれど、元々顔見知りであったことは事実だ。