ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません

　ここで私が嘘をついたところで、同僚達が彼に直接事実を聞きに行った場合、齟齬が生じるのはまずい。

　この場で私が取るべき最適解は、完全黙秘だ。

　黙々と運ばれてきた料理を前にして、最短時間で平らげることだけを目標に口へ運ぶ。

「内宮と総支配人って、お似合いよね」
「わかる！　クールビューティと優しい好青年カップルって感じが最高！」
「当然うちで、挙式は挙げるのよね？」
「アリアドネ・ホールでカラードレスを着た内宮さん……！　絶対素敵に決まってる！」
「で？　いつ結婚するの？」

　無言は肯定と認識されているのだろう。

　勝手に交際していることを前提にして紡がれる会話は、どんどん飛躍していく。
　このまま口を噤み続ければ、結婚式の日取りまで勝手に捏造されてしまいそうだ。

　私は渋々口を開き、二人の会話を否定する。

「私と総支配人は、男女の関係ではありません」
「えー!?　嘘だ～！　絶対付き合ってるでしょ!?」
「付き合ってないなら、御曹司の片思いってこと!?　なんで受け入れてあげないの!?　玉の輿なのに！」

　彼の肩書は、周りが羨むほどに素晴らしいものだ。

　私に気のある素振りが随所に感じられるけれど、複数人にまったく同じ態度で接している可能性だってある。