ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 言い寄られたことに舞い上がり、その気になって後々傷つくのは私だけだ。

 秋菜はそうなることを恐れて、よく知っている渉を彼氏にするべきだと勧めてきたのだろう。

 だったら最初から、あの夜のことなどなかったことにするべきだと思うのに――。

 同僚達には、こちらの意図がうまく伝わらない。

 理解されようなんて、考えていないけれど。

 一方的な感想を抱いて押しつけてくる彼女達と会話をしたって、疲れるだけだ。

 私は肩を竦めてから、空いている椅子の上に纏めた荷物を手に取った。

「彼の肩書には、興味がありません」

 思った以上に、冷たい声で発言してしまったからだろう。

 場の空気が凍る。

 同僚達は互いに顔を合わせて目を丸くすると、テーブルから身を乗り出して畳みかけてきた。

「ああ見えて、性格が超最悪ってこと!?」
「そのあたり、もっと詳しく!」

 彼女たちは私の恋バナが聞きたくて仕方ないようだけれど……。

 彼に対する想いの詳細は、信頼できる幼馴染にしか話すつもりはない。

「プライベートなことですので、お答えできません」

 私はお情け程度の謝罪を述べると、食事を終えてホテルに戻った。
< 106 / 168 >

この作品をシェア

pagetop