ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 その後私よりも数分遅れて戻ってきた同僚達との間には、気まずい空気が流れていたけれど……。

 彼女達の協力が必要なトラブルさえ舞い込んで来なければ、問題ない。
 私は淡々と業務に従事しながら、時折総支配人の姿を盗み見た。

 彼は渉の勤務状況を確認することにしたらしい。

 真後ろに控え険しい顔で佇んでいる姿を何度か目にした私は、当然の反応だと考える。

「お客様のお部屋は、1152号室となりまーす!」

 声の大きい幼馴染がお客様の名前を叫ぶと、ロビーの端から端まで渉の声が響き渡る。

 個人情報の流失にも繋がりかねないため、相対するお客様の予約名を叫ばぬようにと厳命されていたくらいだ。

 元気が良すぎるのが返って気持ちいいと機嫌を良くしてくださる方も多いが――ガイドブックに五つ星ホテルとして名を連ねる以上、落ち着いたラグジュアリーな雰囲気を求める宿泊客にとって彼の対応は夢から覚めるようなもので……。

 黙れと命令するわけにもいかず、総支配人はどうしたものかと頭を悩ませているようだった。

「相原」
「はい! なんすか?」
「発声方法から、見直す必要がありそうだ」
「なんすか、それ?」

 チェックインの手続きを終えた渉に話しかけた彼は、静かな声音で問題点を指摘する。
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