ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 幼馴染の発声方法は腹式呼吸が癖になっているから、このホテルにそぐわない大声になってしまうようだ。

 オペラ歌手のように言葉を発する必要はないのだとアドバイスを受けた彼は、剣呑な瞳を支配人へ向けた。

「へぇ? 腹に力を込めなければ、大声が治るんすか。そんな簡単に改善できたら、苦労はしないと思うんすけど」
「そうだな。指摘を受け入れ、それを改善するは並大抵のことではない。香帆は活路を見いだせたが、相原は……」
「……香帆のこと。さっきまで、名字で呼んでましたよね?」
「君が席を外している間、俺が名前を呼ぶことで、クレームを軽減できることがわかった」
「なんすか。それ! 聞いてないんすけど!」

 渉は露骨に嫌そうな表情をして、総支配人を威嚇するように声を荒らげた。

 その姿はお気に入りのおもちゃを奪われて駄々を捏ねる子どものように見えるが――私にはそれが、飼い主を取られまいと相手を威嚇する犬に見えて仕方がない。

「こら。相原くん。総支配人に噛みつかないの」
「名字で呼ぶなよ……」
「彼に感謝をすることはあっても、怒鳴りつけるなんてあり得ないわ」
「総支配人が出向してくる前に、さっさと辞めればよかった」

 渉は苛立ちが隠しきれない様子で彼を睨みつける。
 総支配人はその視線に受けて立つようで、身長差の関係で幼馴染を見下していた。
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