ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 彼と渉は、例えるならば水と油のような関係だ。

 冷静沈着でスマートな印象を与える慎也さんと、明るさだけが空回りしている渉。

 どちらか一人しか選べないならば、私が選択するべき男性は――。

 どちらを選び取るべきかと考えたところで、無意味でしかない。

 渉は大人しい私を引っ張り、時には背中を押してくれる幼馴染で、頼りがいのあるお兄ちゃん。

 総支配人は憧れと淡い恋心を抱く、唯一の人。
 その印象が変化することは、ないだろうから……。

「戦う前から降りるのか」
「その余裕綽々な態度がムカつく」

 彼に煽られた幼馴染が悔しそうに唇を噛みしめれば、総支配人は鼻で笑って見せる。
 宿泊客が近くに居ないからこそできる場外乱闘だ。

 このまままじゃ二人が、私を奪い合っているのではないかと。

 穏やかではない噂話が拡散されてしまいそうだわ……。

「覚えてろよ。絶対、奪わせねぇから」
「最初から香帆が君のものではないと言うことを、自覚するべきだ」

 話はそれで終わりだと言うように視線を同時に外したあたり、案外うまくやっていけそうな気がするのよね。
 渉は元々、私さえ絡まなければ誰とでも仲良くなれるタイプだもの。
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