ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
10・一触即発(慎也)
「山田様は来年も、オレ達三人で出迎えることを望んでるみたいっすよ」
「ああ。そう聞いている」
「険悪な雰囲気になるような話とか、する必要あります?」

 俺だって用事がなければ、彼と会話などしたくない。
 だが――相原に香帆を諦めさせなければ、何度もこうして彼女を奪い合って言葉を交わすことになる。

 非生産的な行動は、最低限にしておきたい。

 消極的な普段の考えが全面に押し出た結果、俺はこれから短期決戦を仕かけるつもりだった。

「避けては通れぬ道であれば、俺は早めに問題を片づけたい」
「そうすか。この間香帆を自宅へ送り届けた時は、先延ばしにしたくせに?」
「あれは、香帆がいたからだ。男同士の醜い争いを、間近で見せるわけには行かないだろう」
「醜い争いねぇ……」

 普段の明るさが鳴りを潜めた相原は、思案顔のあとに満面の笑みを浮かべて管理人室を指差した。

「じゃあ、行きます?」
「ああ」

 できるだけ、手短に済ませるよう心がけるとは言えなかった。
 これから俺は、彼を激怒させる交渉をするからだ。

 ――殺されても、文句は言えない。

 相原が彼女の幼馴染である限り、避けては通れぬ道だ。
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