ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 俺は覚悟を決めると、対面の席に座った彼に声をかけた。

「これから香帆に、プロポーズする」
「へぇ? それをオレへ宣言して、なんになるんすか? マウント取ってるつもりなら、お門違いもいいところなんすけど」
「彼女が合意すれば、俺は香帆と結婚する」

 彼女を愛する彼にとって、俺の発言は神経を逆なでするような話だろう。
 相原の立場であったなら、ふざけるなと目の前のテーブルをひっくり返してもおかしくない。

 だが、彼女の幼馴染は意外にも、そうした暴力的な行為に手を染めることはなかった。

「新婦側の保証人に、なってくれないか」

 新郎欄の記入を済ませた婚姻届をテーブルの上に置けば、相原は目を見張る。
 まさか、そのような提案をされるとは思わなかったのだろう。

 俺が彼の立場であれば、まったく同じ反応をする。
 無理もないことだと考えながら、相原の言葉を待つ。

「横から掻っ攫いといて、したい、じゃなくてする? 頭おかしいんじゃねぇの……!」

 彼は両膝の上に置かれた拳を握り締め、低く唸るように怒鳴ってきた。
 俯いている為表情は確認できないが、内側に怒りを押し止めようとしているのは間違いない。

「君に殴られてもおかしくはない状況だと、認識している」

 相原はこの世に生を受けた瞬間から、香帆とずっと一緒に過ごしてきたらしい。
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