ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 このまま一生ともに歩む為大切に守ってきたのに、ある日突然自分の知らぬ所でぽっと出の男に掻っ攫われたのだ。
 彼の怒りは正しく、グーで殴られても甘んじて受けるつもりだった。

「ボコボコにされる覚悟は、出来てるってことかよ……!」
「ああ。君にはその権利がある」

 俺が静かに言い放つと、彼は胸倉を掴んで顔を近づけてくる。
 鬼の形相で睨みつけて来た相原の瞳には、さまざまな感情が浮かんでは消えていく。

「なんで……!」

 怒り、悲しみ。
 そして、苦痛――。

「なんで俺は駄目で、あんたはいいんだよ……!」

 その質問の答えは、残念ながら持ち合わせてはいなかった。

 彼は聞く相手を間違えている。

 俺は自分でも、なぜ選ばれたのかをよく理解していないからだ。

 だが――ある程度であれば、予測はできる。

「距離が近すぎたんだ」
「俺だけ塩対応していれば、好きになってもらえたのか? そんなわけねぇだろ!」
「君だって、理解しているだろう。香帆が、相原を兄として慈しんでいることを」
「そんなの、指摘されるまでもねぇ……!」

 香帆は彼を家族として愛することはあっても、恋愛を抱けなかったのだ。
 その結果、相原と真逆の性格をしているように見える俺へ惚れてしまった。
< 116 / 168 >

この作品をシェア

pagetop