ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「俺は運がよかった」

 行きつけのバーが一緒で、偶然同じ空間に連日居合わせただけで恋が始まったのだ。
 彼からしてみれば、溜まったものではないだろう。

 彼女はしっかりしているからこそ、融通の利かないところがある。

 香帆を本気で自分のものにしたいと願っているのであれば、最初から目を離さなければよかったのだ。

「運の良し悪しで、好きな女を取られる身にもなってみろよ……!」
「本当に、すまない」

 申し訳なさそうな声とともに小さく頭を下げれば。
 胸倉を掴む彼の力が緩まった。

 相原は唇を震わせながら、呆然とした表情で呟く。

「謝るくらいなら……! 香帆を、返してくれよ……」

 それだけは、叶えられない相談だ。
 彼女は彼ではなく、俺を選んでいる。

 身を引いたところで、香帆が相原へすぐに乗り換えるとは思えない。

 彼ならば今回のことを教訓にして、二度と目の届かない場所へ出入りをしないように監視を強化するだろうが――彼女は猫のように自身を閉じ込める籠からするりとすり抜けて、また別の男性を好きになってしまうかもしれない。

 それが悪人であれば、香帆を俺と結婚させておくべきだったと相原が後悔する日が訪れる可能性もあった。
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