ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「……あんたの気持ちは、よくわかりました」
「殴らないのか」
「殴ったところで、あんたが香帆を好きな気持ちは止めらんねぇだろ」
「ああ」
「意味わかんねぇ……」

 彼は結局、俺に手を挙げるようなことはしなかった。
 胸倉から指を離してゆっくりと後退した相原は、どっしりとソファーに腰を下ろすと、両手を額に当てて項垂れる。

「あーあ。オレもあんたみたいに、イケメンで御曹司だったら、好きになってもらえたんだろうな……」

 どうやら、怒鳴り散らす元気もないようだ。

 真っ白に燃え尽きていると言わんばかりの状況に大丈夫だろうかと心配しながら、俺は相原の呟きを耳にしたのだが……。

 その言葉は聞き捨てならず、思わず怪訝な表情をしながら口を挟んでしまった。

「君が御曹司であれば、女性が黙っていないと思うが」
「はいはい。勝ち組にお世辞なんか言われたって、嬉しくねーですよ」
「俺は事実を述べているだけだ。君の接客態度は、声の大きささえ目を瞑ればかなり評判がいい」
「そりゃ、声の小さいことさえ黙認すれば満点の妹と同じ血が流れてるんで。これでおちこぼれだったら、いろいろと問題があるだろ」

 先程まで青白い表情をしていた相原も、本来の調子を取り戻したようだ。

「まぁ、あんたは香帆の選んだ男なんで。認めてやってもいいですけど――」

 彼は天を仰ぐと、苦笑いを浮かべながら俺へ思い出したように告げる。

「秋菜が頷かない限り、香帆とは結婚できないと思ってください」

 相原は自分以上に妹が手強いと告げると、こちらへ手を差し伸べてきた。
 どうやら、握手を求めているらしい。

「ありがとう」
「あいつを泣かせたら、容赦なく掻っ攫いますからね」
「ああ。君の分まで、香帆を幸せにすると誓おう」

 固い握手を交わし、相原と別れた俺は香帆の待つバーへ向かった。
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