ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「こちら、追加のワインボトルとなります」
「ありがとう」

 マスターからワインボトルを受け取ったわたしは、赤くてどろりとした液体をグラスへ注ぐ。

 彼はその様子に目を見張り、凝視している。

 どれほど仕事が忙しくて、疲れていたとしても。

 一杯のワインを注文して飲み終わったらさっさと帰路につくのが日課になっていることを、男性も横目で確認していたからかもしれない。

 普段と異なる行動をすれば、悪目立ちしてしまう。

 奇しくも彼の気を引くことに成功してしまった私は、思い切ってひらひらと右手を振って存在をアピールすることにした。

 ――彼は気まずそうに視線を逸らすと、再びお猪口を気難しい顔でじっと見つめる。

 直接言葉を交わすことは、叶わなかったけれど――。

 顔立ちの整った男の横顔を見ながらワインを飲み干せるだけでも、充分だ。

 コルクの蓋を開けた私は、ボトルを傾けて空になったグラスへ再びワインを注ぐ。

 手に持っている容器に注がれる赤い液体を見るだけでも、頬が緩むのを感じる。
 コルクの蓋をしっかりと締めた私は、グラスを片手にワインを揺らし、ゆっくりと口にする。

 これぞまさしく、至福の瞬間だ。

 口の中いっぱいに広がるまろやかな味を堪能した私は、ゴクゴクとそれを飲み干し、三杯目を注ぐ。

 すると、コルクの蓋が開閉する音を耳にした彼がお猪口をじっと見つめるのを止め、再びこちらを凝視してきた。

 その瞳からは、ペースが早すぎないかと心配そうな意図が読み取れる。

 私は心配ないと告げるため妖艶に微笑んだあと、行儀悪くカウンターのテーブルに突っ伏した。
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