ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 シャカシャカと小気味のよい音が店内に響く音に癒やされながら、私はカクテルの出来上がりを待つ。

 濃厚な味を楽しむのも、いいけれど。
 今日はさっぱりとしたい気分だった。

 ジンジャエールと混ぜることにより、赤ワイン独特の渋みが打ち消されるのだ。
 甘さが際立ち飲みやすくなるカクテルを、気分転換に嗜むのも悪くはない。

「お待たせいたしました。キティでございます」

 これを飲み干すまでの間に、総支配人が顔を出してくれたらいいけれど。

 私はグラスに注がれた発泡酒がしゅわしゅわと音を立てる姿をじっと眺めながら、マスターと会話をする。

「連日酔っ払って、ご迷惑をおかけしており……申し訳ございませんでした」
「いえ……。無事に、帰宅できたようで何よりです」
「ありがとうございます」

 最近店主とも、毎日のように少しずつ言葉を交わすようになった。
 総支配人が来るまでの暇つぶしだと思えば、この人と話すのも悪くない。

 彼は客と店員の域を超えることなく、根掘り葉掘り聞いてくることがないので心地いいのだ。

「無理に会話をしようと考えなくても、構いませんよ」

 さて、今日は何を話そうかしら?
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